
ピ、ピーマン!? わたしは心の中で絶叫した。
それは、妻が作ったカレーライスがはじめて食卓に出されたときのことである。ライスの上にたっぷりとかけられたカレーの中に、カレーの色と絡まり薄茶緑に変色したピーマンが入っていたのである。わたしは自分の目を疑いたくなるほど唖然とした。
カレーの具材は、肉(牛、豚、鶏)をはじめ、玉ねぎ、人参、ジャガイモが主役だ。わたしとしては、母が作っていたカレーライスも学校給食で出されたカレーライスもこのキャストだけだったので、これらの具材だけでカレーライスは完成されたものであり、お互いに出しゃばらず、引きこもらず、尊重しあい共存共栄してカレーライスに点在していれば、それだけでわたしの視覚も味覚も臭覚も十分に楽しませてくれたのである。脇役も端役もエキストラもいらなかった。
カレーもピーマンも自己主張の強い食べ物だ。カレーの風味、辛さの中の甘みを楽しみながらカレーライスを食べているところに、
「ピーマンでございます!」
と、サザエさん張りの勢いで、ピーマンの独特の苦味が割り込んできてもらいたくないのである。
つまるところ、具材にゲストを加えるとしても、わたしは間違ってもピーマンに出演をネゴることはない。それなのに、妻のカレーライスには玉ねぎ、人参、ジャガイモと肩を並べて、ピーマンが堂々とレギュラー出演していたのである。ピーマンはカレーライスにはミスキャストである。
更に驚いたのは、ホワイトシチューにも、
「オファーがありましたので^^v」
と、ピーマンがシチューの中を浮遊していたのである。カレーライスと同じくレギュラーでだ。
ふぅ~参った・・・。
いつの日か、きっといつの日か、このピーマンをカレーライスからもホワイトシチューからも降板させてやると、わたしは臥薪嘗胆の日々を過ごしていた。
ところが、不思議なことに、ピーマン入りのカレーライス、ホワイトシチューを二度、三度、四度と食べていくうちに、どちらもおいしく感じるようになってきたのである。
口中にカレーの辛味や、ホワイトシチューのクリーミーな甘みの余韻を残しつつ、
「次はおいらの番だよ」
と、ピーマンの苦味が口の中で広がると、なんとも言えない旨味に感じるようになったのだ。
そして、カレーライスやホワイトシチューにピーマンを入れるのは邪道だと思っていたわたしの味覚は、いつしかどちらにもピーマンは入れないとダメでしょ。と、変化していた。
そんなある日、妻と買い物をした帰りの車中で、運転をしているわたしに助手席の妻が、話しかけてきた。
拙:カレーライス
妻:ほんま、カレーライス好きやなぁ、わかった。
拙:ピーマンは必ず入れること^^v
妻:え! ピーーーマンは普通入れるでしょ!?
↑絶叫^^;
拙:いやいやいやいや、ピーマンは普通入れないから。おれもキミが作ったカレーではじめてピーマン入り食べたよ
妻:え゛ーーー! そーなのぉー!?
↑またまた絶叫^^;
妻はわたしと正反対に、ピーマンを入れないカレーなんて! と、驚いていたのだ。ま、カレーもホワイトシチューも入れる具材はこれでなければならない。なんて決まりはありませんからね。
カレーライスほど、その家庭の味が出るもので、わたしの母は、豚の角煮用の肉を拍子木切りに、玉ねぎはくし切りに、人参とジャガイモはひと口大の乱切りにして、ルーは市販の異なるメーカーの辛口と中辛の二種類を1:2の割合で作っていた。
大したことではないが、それでも母のカレーライスの味になるわけで、わたしはおいしくいただいていた。同じように、妻の家では昔からからずーっと、にんにくを隠し味にした、ピーマン入りカレーライスをおいしく食べていたってことだ。
因みに、ピーマン入りカレーライスを食べている人はマイノリティかなと思っていたが、飲み屋などでこの話をしたら、
「うちもピーマン入れますよ」
と、答える人が結構いることには驚いた。
従弟夫婦と飲んだときも、従弟は、
「ボクの実家でも、ピーマン入れてましたよ。ピーマン入れるとおいしい☆」
と、言っていた。
意外とピーマン入りカレーライスを食している人は多いのかも。
さて、一昨朝、妻と『孤独のグルメ Season1』の第一話を観たのだが、半分に切ったピーマンの中に、つくねを乗せて潰して食べるシーンがあった。わたしがそれを食いいるように見ていたら、妻はニヤッと笑いながらわたしの方に顔を向け、
「やってみたいんやろ。ピーマンはあるから、今夜仕事帰りにつくねこうてきてあげるわ」
と、わたしの気持ちを即察知してくれた。
そして、昨夜はピーマンのつくね乗せ&やきとり数種類を肴に晩酌をした。『孤独のグルメ』ではつくねは塩を使っていたが、塩でもタレでもおいしいと思う。
食べた時、シャキッ! パリッ! と、軽快な音を立てるピーマンが味を一層引き立てた。甘露甘露。


